化学メーカーでの生成AI活用事例:Copilotで実現した解析業務の効率化体験談

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はじめに

化学業界では、品質管理業務における測定データの解析が日常的に行われている。本記事では、プログラミング未経験の素材メーカー社員が、生成AI(Microsoft Copilot)を活用して品質管理業務を30倍効率化した実体験を紹介する。

背景:手作業による品質管理の限界

従来の品質管理業務の課題

筆者は化学メーカーの品質管理部門で、製品の物性測定データを解析する業務を担当していた。毎日のルーチンワークとして以下の作業が必要であった:

使用している測定機器例とデータ形式

  • 万能試験機:引張試験データ(CSV形式)
  • 熱分析装置(DSC):融点・ガラス転移点データ(TXT形式)
  • 分光光度計:透過率データ(TXT形式)

従来の解析フロー(約2時間の作業)

  1. 各測定機器からCSVファイルを手動ダウンロード
  2. Excelで各ファイルを開き、データ整合性を確認
  3. 規格値との比較計算を手動実施
  4. 合格/不合格の判定とコメント記入
  5. 報告書用の表とグラフを作成

業務量急増による課題の顕在化

新製品開発プロジェクトが同時に複数件立ち上がり、解析対象のサンプル数が従来の3倍に増加。このままでは1日のかなりの時間を解析作業に費やすことになり、他の業務に支障が出る状況となった。
上司からは「何らかの効率化策を検討してほしい」との指示があったものの、社内のIT部門は他のプロジェクトで手一杯。「マクロでも組めば?」という所だが,自分にも周囲の人間にも経験がない。そもそも,これまでルーチンワークだったのに自動化していない(できていない)時点でお察し。

生成AIとの出会いと挑戦

Microsoft Copilotでの情報収集開始

プログラミング経験ゼロの筆者は、まずCopilotに「Excelマクロ 初心者」「VBA 自動化」などのキーワードで相談を開始した。専門用語が分からない状態でも、「○○をしたい場合はどうすればいいか?」という具体的な業務内容で質問することで、徐々に方向性が見えてきた。

Pythonという選択肢の発見

当初はExcelマクロを想定していたが、Copilotとの対話の中で「CSVファイルの一括処理にはPythonが適している」というアドバイスを受けた。プログラミング経験のある友人からも「初心者でも始めやすい言語」と教えられ、Python挑戦を決意した。

実装過程での試行錯誤

初期の挫折と学習

実行できない

「エクセルファイルからこのデータを抜き出して,こういうデータ形式とグラフに直して!」という指示をCopilotに出すと,確かにPythonのコードを出力してくれる。
しかし,あまりにPython初心者すぎるが故にコードの実行方法が分からない
公式サイトから最新のバージョンをダウンロードし,出力したコードをpy型式で保存し,いざ起動!……黒い画面が一瞬移るだけで起動しない。コマンドプロントのPython “ファイル名”.pyの命令文など当然知らなかった。


気を取り直してコマンドプロンプトから実行するも,数行目から大量のエラー。
よくわからないので,Copilot先生に聞いてみる。「pipコマンドで必要なライブラリをインストールしてください」なるほど,外部のライブラリが必要なのかとインストールし,再度実行!エラー!
エラーの英語を読んでみると,何やらインデント?なるものに異常があるらしい。
Copilot先生に丸ごと聞くと,「この部分の空白を4文字増やせ」との改善指令が。最初からそうしてくれ。その部分に必要なスペースを打ち込み,再度実行,しかしまた別のエラー……。


一体いつまで続くんだと思いながらこの修正作業をひたすら繰り返し,何とか起動できる状態まで持っていった。

出力できない

起動できたものの,今度はエクセルファイルを選択するとエラーが出る。
何やら,「データの形式が想定と違う」らしい。どんな想定?
Copilot先生のいいところはエクセルファイルを直接入力するマルチモーダル機能がある所。
「データ形式はこれですよ」と添付して教えることで,何とか読み取りに成功した。

ここまでで,何とかコードの実行とファイルの読み込みまで成功した。
ここまで長かったが,ここからも長かった。目的のデータ加工が上手く行かないのである。
ある行からある行までの平均値を出そうとしても,なぜかデータ数が表示と合わない。
グラフを作成させても,軸がめちゃくちゃ,文字化けしている。
修正を依頼したら,コードが実行できなくなる……。

ともかく,試行錯誤を繰り返しCopilotをなだめすかして,何とか形にすることができた。
実際に使える形にするまで,1日数時間かけて1週間もの時間を費やした。ただエクセルファイルの読み取りを自動化するだけなのに。

実装した機能一覧

最終的に以下の機能を実装した:

  • 自動ファイル処理:指定フォルダ内のCSVファイルを自動検出・読み込み
  • データ前処理:欠損値処理、単位変換
  • 品質判定:規格値との自動比較と合否判定
  • 統計処理:平均値、標準偏差、グラフ作成
  • レポート生成:結果を整理したExcelファイルの自動生成

劇的な業務効率化の実現

定量的な効果

作業時間の短縮

  • 従来:10ファイルにつき30分
  • 自動化後:1分程度で完了
  • 効率化率:30倍

品質向上の効果

人為的ミスの排除

  • 手作業時:月2-3回計算ミスや転記ミスが発生
  • 自動化後:ファイルを選択するだけなので計算ミスがゼロに
  • 品質管理部門の信頼性が大幅向上

化学業界での生成AI活用から学んだ教訓

1. 完璧主義を捨てて実用性を重視

「とにかく動けば価値がある」という考え方を身につけた。最初から完璧なツールを目指すのではなく、まず動くものを作ることが重要である。

2. 生成AIは「翻訳者」として活用

生成AIは「業務でやりたいこと」を「プログラムで実現する方法」に翻訳してくれる存在である。自然言語をコードに変換する能力を最大限活用すべきである。

3. エラーをいちいち気にしない

「なんでこんなエラーが……」から「またエラーか、Copilotに聞けばいいや」への心理的変化が重要である。実際,表示されたエラーをCopilotに伝えるだけの作業をしていた時間がかなり長い。どちらが創造的な行為をする主体かわからない。

4. 段階的な機能追加の重要性

一度に全機能を追加するのではなく、段階的に機能を追加することで着実にコードを作成できる。一度にあれもこれも機能を追加すると,コードの起動すらままならないことがよくあった。段階的に追加することで,エラーが生じた時に対処しやすい。

現在の状況と今後の展望

3ヶ月後の成果

  • 上司に相談した結果,開発したツールは部署内で標準化された
  • 自分を含め5名のメンバーがルーチンワークとして使用中
  • 品質管理業務の効率化が組織全体に波及

化学業界での生成AI活用の可能性

プログラミング未経験者でも、生成AIを活用することで実用的な業務改善ツールを開発できる。ただし、地道な試行錯誤と継続的な学習が必要である。

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まとめ

化学メーカーでの品質管理業務において、Microsoft Copilotを活用した業務効率化は大きな成果を上げた。生成AIの力を借りることで、プログラミング未経験者でも実用的な自動化ツールを開発できることが実証された。

化学業界での生成AI活用は、今後さらに拡大していくことが予想される。本記事の体験談が、同様の課題を抱える方々の参考になれば幸いである。


キーワード: 生成AI、Copilot、化学、業務効率化、品質管理、Python、自動化、データ解析

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