LiB(リチウムイオン電池)とは
リチウムイオン電池(LiB)は、現代のエネルギー社会を支える最も重要な二次電池(充電式電池)である。スマートフォンやノートパソコン、電気自動車(EV)、再生可能エネルギーの蓄電システムなど、幅広い用途で利用されている。
2024年時点での世界市場規模は約544億ドル、2030年には1,825億ドルへと拡大すると見込まれている。とくに中国のCATLやBYD、日本のパナソニック、韓国のLGエナジーソリューションなどがグローバル市場をリードしている。
リチウムイオン電池の大きな特徴は、「高エネルギー密度」「長寿命」「軽量」「高い出力性能」にある。
従来の乾電池や鉛蓄電池と比較して、同じ重さ・体積でより多くのエネルギーを蓄えられることから、モバイル機器からEVまで幅広い分野で不可欠な存在となっている。
リチウムイオン電池の発電の原理(メカニズム)
リチウムイオン電池の発電メカニズムは、「ロッキングチェア方式」と呼ばれる電気化学反応である。
これは、充電と放電の過程でリチウムイオン(Li⁺)が正極と負極の間を往復する仕組みである。
- 充電時:正極からLi⁺イオンが脱離し、負極(多くは黒鉛)に挿入される。同時に電子が外部回路を通って負極側へ流れる。
- 放電時:Li⁺イオンが負極から正極へ戻り、電子も逆方向に流れることで電流が得られる。
この仕組みにより、高いエネルギー密度とサイクル寿命が実現されている。
代表的な材料として、正極にはニッケル・マンガン・コバルト系(NMC)、リン酸鉄リチウム(LFP)、高電圧スピネル(LNMO)などが使われる。負極には黒鉛やシリコン系材料が用いられる。
電解質は有機溶媒にリチウム塩(LiPF₆など)を溶かした液体が主流だが、全固体電池ではガーネット系酸化物や硫化物などの固体電解質が使われる。
電圧特性は標準3.6〜3.7V、満充電時4.2V、放電終止電圧3.0Vである。
容量(mAh/g)は材料特性や設計によって決まる。
さらに、初回充電時にはSEI(固体電解質界面)層が負極表面に形成され、電池寿命や安全性を左右する。
普通の電池との違い(一次電池・他二次電池との比較)
アルカリ乾電池(一次電池)との違い
- エネルギー密度:アルカリ乾電池は85-190 Wh/kg、リチウムイオン電池は150-250 Wh/kgと2倍以上である。
- コスト:アルカリ乾電池は500-1,000$/kWh、リチウムイオン電池は115-139$/kWh(2024年時点)と、LiBは繰り返し使用によるコストダウンが可能である。
- 再利用性:乾電池は使い切りだが、LiBは1,500〜5,000サイクル以上の充放電が可能である。

他の充電池(ニッケル水素・鉛蓄電池)との違い
- ニッケル水素電池:エネルギー密度60-120 Wh/kgでLiBの半分以下。自己放電率も高く、月20-30%(LiBは2-5%)である。
- 鉛蓄電池:30-50 Wh/kgと非常に低く、コストは安いが大容量・軽量化には不向きである。
全固体電池(次世代技術)との違い
- エネルギー密度:理論的に300-500+ Wh/kg。従来型LiBの250 Wh/kgを大きく上回る。
- 安全性:不燃性の固体電解質により熱暴走リスクが劇的に低減される。
- コスト・量産性:現状では400-800$/kWhと高コストだが、2028-2030年に140ドル/kWh以下への急落が予測されている。
コスト動向とその背景
2024年の記録的コストダウン
2024年はリチウムイオン電池にとって歴史的な年となった。パック価格は世界平均115$/kWh、前年比20%減を達成した。
中国では94$/kWhという最低価格を記録。アメリカで123$/kWh、欧州で139$/kWhと地域差も拡大している。
コスト低減要因
- LFPなど安価な正極材料の普及
- 製造自動化・規模の経済
- 原材料価格の低下
- セル・トゥ・パックなど新設計の導入
全固体電池のコスト予測
全固体電池は現在プロトタイプで400-800$/kWhと高コストだが、2028〜2030年には140$/kWh以下へと下がる見込みである。量産・歩留まり向上により、リチウムイオン電池とのコスト均衡が期待されている。
リチウムイオン電池の危険性・安全性
リチウムイオン電池は優れた性能を持つ一方で、「熱暴走」「火災」「ガス発生」などの安全課題を抱えている。
熱暴走と火災リスク
- 熱暴走は60°C以上で発生し、数分で600°Cに達することもある。
- 主な原因:過充電、外部損傷、内部短絡、外部加熱が挙げられる。
- 火災:有機電解質が発火し、消火後も再発火リスクがある。
有毒ガスの発生
故障時にはフッ化水素(HF)や一酸化炭素(CO)、シアン化水素(HCN)が発生し、密閉空間では致命的な濃度に達する危険がある。
安全対策・基準
- UN38.3:輸送安全の国際試験基準。
- PSE認証(日本):IEC 62133-2への移行で火災防止基準が強化されている。
- 最新設計:Blade Batteryやセラミックコーティングセパレータなど、安全性向上技術が導入されている。
全固体電池の安全性
全固体電池は不燃性電解質を採用し、200°C以上の熱安定性を持つため、従来型LiBの最大の弱点である熱暴走・火災リスクを大幅に低減できる技術として期待されている。
主要メーカーと技術動向
中国メーカー
- CATL:世界シェア37.9%、先進的なLFP製品やQilin電池を開発。テスラ、BMWへの供給も実施している。
- BYD:17.2%シェア。自社EVと一体化したビジネスモデルに強みを持つ。Blade Batteryで高い安全性とコスト効率を両立。
日本メーカー
- パナソニック:3.9%シェア。テスラと協業し、4680セルなど先端技術を開発。カンザス新工場で生産能力を大幅に拡大している。
- トヨタ:全固体電池で世界をリード。8,000件超の特許と、2030年商用化目標を掲げている。
韓国メーカー
- LG Energy Solution:10.8%シェア、欧米での生産拡大中。
- サムスンSDI:高級車向け、全固体電池の研究開発を強化。
新興企業・技術
- QuantumScape:セパレータ技術のブレークスルーと、12分急速充電を実現するサンプルセル生産を開始している。
- ProLogium:シリコン系負極と全固体電池で5分充電に成功している。
リチウムイオン電池の将来性
リチウムイオン電池技術は成熟期を迎えつつあるが、さらなるイノベーションが進んでいる。
次世代技術の展望
- 全固体電池:2028〜2030年にコスト均衡、2030年代に大衆市場へ拡大。安全性・エネルギー密度・急速充電性能が大きく向上する。
- ナトリウムイオン電池:資源制約の克服と低コスト化を目指す新技術である。
- シリコン系負極:エネルギー密度と急速充電性能の向上に寄与している。
市場と環境への影響
- EV市場:2024年には需要の67%を占め、2034年には2,250億ドルの市場規模に成長する見込みである。
- エネルギー貯蔵システム:年率28.9%で成長。再生エネ普及で蓄電需要が急拡大している。
- 環境対策:製造時の炭素排出削減、リサイクル率向上(将来はコバルト51%、ニッケル42%がリサイクル由来に)。
まとめ
リチウムイオン電池は高いエネルギー密度と長寿命を実現し、現代社会の基盤を支えている。
普通の電池との違いは、その圧倒的な性能と繰り返し使用によるコストパフォーマンス、安全対策技術の進化にある。
2024年は記録的なコストダウンとともに、全固体電池をはじめとした次世代技術がいよいよ実用化段階に入った。製造インフラや安全性、環境負荷低減の課題を乗り越えつつ、電動化社会のさらなる進化が期待される。
参考
https://article.murata.com/ja-jp/article/basic-lithium-ion-battery-1
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250626/k10014844891000.html
https://metoree.com/categories/5263/
https://www.provej.jp/column/ar/lithium-ion-battery/
https://www.panasonic.com/jp/energy/study/academy/sikumi.html
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