はじめに:3D可視化の課題
化学の学習において、分子の立体構造を理解することは極めて重要である。しかし、従来の教科書の平面図では、複雑な立体配座や分子間相互作用を正確に把握することは困難であった。以前に,分子構造を描画できるプログラミングコードを書けないか?と思い立ち,最新の生成AIであるClaude4にお願いしてみた。
結果,シンプルなお願いでかなりそれっぽいアプリケーションができた。原子や結合を自由に配置し,水素を後から追加する機能まで搭載していた。しかし,3Dモデリング技術が貧弱なのが玉に瑕だった。
そこで筆者は、最新の生成AI技術を活用して、化学構造の3Dモデリングが可能かを検証してみた。
2D化学構造描画から3Dモデリングへの発展
エタノール分子での初回テスト
まずは基本的な分子から試してみた。以下のような簡潔な指示を出した:
「エタノール分子について3Dのポールアンドスティックモデルで表示し、ゆっくりと回転するようなモデルを作成してください。」
結果:一発で求めるものが完成した
出力されたHTMLコードは期待を大きく上回る品質であった。
ドラッグで分子モデルの回転,ホイールの回転で拡大縮小が可能である。しかも影のニュアンスも非常にきれいで,分子描画ソフトの機能の一部と言われても信じてしまいそうだ。
よく見ると原子の位置もかなり正しく,VSEPR則を把握していると思われる。VSPER (valence-shell elctron-pair repulsion) 則とは,簡単に言えば電子対(2つの電子)が反発することで,原子の位置が決まる,というものだ。原子同士の結合には電子対が使われており,電子対同士は反発する。これによって,例えばメタンCH4のような物質は正方形ではなく,四面体の構造を取る(例外も存在する)

今回のコードの作成に,ClaudeはThree.jsという,WebGLを基盤とした3Dグラフィックスライブラリを使用したようだ。筆者は何も指定していないのに,「分子描画にはこれがハマる」と判断して,実装してくれたのだ。
シクロヘキサンでのテスト
2D表現の限界
それでは,少し描画の難易度を挙げてみよう。
「シクロヘキサン」という分子がある。分子構造は下に示す通り,ただの六角形である。
化学を知らない人からしたら,何かのロゴかハチの巣にしか見えないだろう。

何かに似た化学構造というのは色々あって,例えば「シクロペンテン」という化合物の分子構造は,「ベースフード」という会社のロゴにそっくりである。


このシクロヘキサンを実際に3Dで描写すると,正六角形になるわけではない。
下に示す線の表記では分かりにくいかもしれないが,椅子型配座や舟形配座といった歪んだ形を有する。
これは,歪んでいるほうが安定して存在できるからだ。
人間も,ピンと張った姿勢よりだらけている方が楽だ(少し違うが)
ともあれ,単に2Dの分子構造から3D表示を考えるだけでは,正六角形の3D構造を描画してしまうだろう。
Claude 4による正確な立体配座の実現
同様の指示を出してテストした:
「シクロヘキサン分子について3Dのポールアンドスティックモデルで表示し、ゆっくりと回転するようなモデルを作成してください。」
驚きの結果:正確な船型配座を出力した
Claude 4は単純な正六角形ではなく、化学的に正しい船型配座を生成した。これは、AIが立体化学の深い知識を持っていることを示している。
まとめ:生成AIがもたらす3Dモデル作成の新時代
以上の結果から,Claude4に分子構造の3Dモデルを作成させられるということが分かった。
以前に確かめた,2Dで分子構造を描画できるモデルと組み合わせることで,綺麗な化学構造を3Dで簡便に表示できるソフトが作れると考えられる。
研究の分野では,Chemdrawなどの優れたソフトがあるのでとても適わないが,何かの合間に化学構造を表示させることは出来る。
また,高校などで立体障害や分子軸の回転などを教えたい場合,平面の図では限界があるので,このような簡易的な3D表示が役に立つのではなかろうか。
今後も生成AIがどのように業務や教育に使用できるか色々と試していきたい。
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