まさかの危機!炭素繊維が「有害物質」扱い?
2025年4月、自動車業界に衝撃的なニュースが駆け巡った。
なんとEU(欧州連合)が、あの「炭素繊維」を有害物質として規制しようとしているというのだ。
またEUか!!
「えっ、炭素繊維って何が危険なの?なぜ規制されるの?」と思った人も多いだろう。幸いにも、この規制は撤回される方針だ。
確かに炭素繊維といえば、F1マシンから高級スポーツカー、最新の電気自動車まで炭素繊維の用途は幅広く、「夢の素材」として知られている。
鉄より強くてアルミより軽いという、まさに理想的な特性を持つ炭素繊維強化プラスチック(CFRP)が、なぜ規制されそうになったのか?
この騒動の全貌を詳しく見ていこう。その過程で日本の炭素繊維メーカーは大きな衝撃を受け、私たちの生活にも影響が及ぶ可能性がある。
炭素繊維規制?EUが問題視した理由
EUが問題視していたのは、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の「廃棄時の安全性」だった。
具体的には、廃車をリサイクルする際に炭素繊維の細かい繊維が空中に飛散し、作業員の皮膚や目、口などに触れると痛みを引き起こす可能性があるというのだ。
また、リサイクル機械にも悪影響を与える恐れがあるとされていた。
そこでEUは、廃棄車両のリサイクルを規定する「ELV指令」という法律の改正案で、炭素繊維を鉛、水銀、カドミウムといった従来の有害物質と同じカテゴリーに分類しようとした。
もしこれが実現していれば、2029年から欧州の自動車への炭素繊維使用が事実上規制されることになっていた。
これが炭素繊維の規制理由であり、世界で初めて政府が炭素繊維を危険物質として扱う前例となるところだったのだ。炭素繊維リサイクルの技術的課題が、このような規制議論を招いたともいえる。
日本の炭素繊維メーカーへの大打撃!株価も大暴落
この報道が流れた瞬間、日本の炭素繊維メーカーの株価は一斉に急落した。
特に業界最大手の東レは一時13%超も下落し、年初来安値を更新する事態となった。
なぜこれほど大きな衝撃だったのか?実は炭素繊維の世界では、日本の炭素繊維メーカーが圧倒的な強さを誇っているからだ。
東レ、帝人、三菱ケミカルの日本企業3社だけで、なんと世界シェアの50%以上を占めている。
これらの炭素繊維メーカーにとって、EU市場は重要な収益源だった。
自動車分野は,炭素繊維産業全体の20%を占める重要な市場である。
欧州は日本の炭素繊維メーカーにとって重要な顧客であり、東レは現地の子会社を通じて高級車向けビジネスを展開し、三菱ケミカルもイタリアに拠点を構えて事業拡大を図っていた。
それが一夜にして使えなくなるかもしれない,それは株価も暴落するわけだ。

炭素繊維の用途は身近なところにも?私たちの車生活への影響
「炭素繊維なんて高級車の話では?」と思うかもしれないが、実は炭素繊維の用途は私たちの生活にも密接に関わってくる問題だった。
特に深刻なのが電気自動車への影響だ。EVは重いバッテリーを積んでいるため、車体をいかに軽くするかが航続距離を伸ばす鍵となる。
炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を使えば、同じバッテリーでもより遠くまで走れるし、充電回数も減らせる。
環境に優しいEVの普及を進める上で、炭素繊維の用途として自動車分野は欠かせない存在なのだ。
BMW、テスラ、ヒュンダイといった身近なメーカーも、ボンネットやルーフ、バッテリーケースなどに炭素繊維を使っている。
もし規制が実現していれば、これらの技術革新が止まってしまう可能性があった。
フェラーリやランボルギーニなどのスーパーカーに至っては、車体の骨格から外装まで炭素繊維だらけ。
これらのメーカーにとっては死活問題だったろう。
炭素繊維の用途は自動車以外にも幅広く、航空機、風力発電装置、スポーツ用品など多岐にわたる。
今回のEU規制は自動車分野に限定されていたが、他分野への波及も懸念されていた。
炭素繊維メーカーと業界あげての大反撃
当然ながら、この規制案には猛烈な反対の声が上がった。
日本では化学繊維協会が即座に声明を発表。「炭素繊維は鉛などの有害物質とは全く違う。環境対応や欧州産業にとっても不可欠で、炭素繊維リサイクルも可能だ。健康への悪影響を示す証拠もない」と強く反論した。
確かに、炭素繊維はWHOが定める発がん性のある「WHOファイバー」からも除外されている。
これまでの研究でも有害性は確認されていないのだ。
自動車業界からも怒りの声が噴出した。55億ドル規模の炭素繊維産業を支える航空業界や自動車業界にとって、代替材料は簡単には見つからない。
特に電動化が進む中、軽量化は死活問題だからだ。
東レや帝人などの日本の炭素繊維メーカーも、科学的根拠に基づく反論を展開。炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の安全性と、適切な炭素繊維リサイクル技術の存在を強調した。

教訓と今後の課題:炭素繊維リサイクル技術の重要性
今回の騒動で、日本の炭素繊維メーカーは貴重な教訓を得た。
技術的な優位性だけでなく、安全性や環境への配慮についても積極的に世界に向けて発信していく,いわゆるロビー活動を推進する必要があることが明らかになったのだ。
各炭素繊維メーカーは既に対策を進めている。
東レ、帝人、三菱ケミカルは製造工程でのCO2排出量削減に取り組んでいる。
また、帝人を中心とした産学連携プロジェクトでは、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)をわずか1分で成形する革新技術の開発に成功し、量産車への実用化を目指している。

炭素繊維リサイクル技術の確立も重要な課題だ。現在は熱で樹脂を溶かして炭素繊維を回収する熱分解法や化学法・機械法が主流だが、より効率的で環境に優しい炭素繊維リサイクル手法の開発が求められている。
今回のEU騒動も、根本的には廃棄時の炭素繊維リサイクルの課題から生じたものだった。
炭素繊維の用途拡大に伴い、リサイクル技術の重要性はさらに高まっている。
「夢の素材」炭素繊維の明るい未来
今回の騒動は最終的な決着はまだ見えていないが、炭素繊維業界にとって大きな警鐘となった。
技術力だけでなく、社会からの理解と信頼も重要であることが改めて浮き彫りになったのだ。
現在のところ、EUは規制案の撤回を検討中であり、2025年末から2026年初頭に最終決定される見込みだ。
自動車での炭素繊維の使用が制限される最悪の事態は回避されそうだが、まだ予断を許さない状況が続いている。
しかし、炭素繊維の将来性は依然として明るい。
電動化が進む自動車業界、環境負荷軽減を求める航空業界、風力発電などの再生可能エネルギー分野など、炭素繊維の用途は拡大する一方だ。
炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の需要も、軽量化ニーズの高まりとともに成長が見込まれている。
日本の炭素繊維メーカーが持つ世界トップレベルの技術力に加えて、環境配慮や炭素繊維リサイクル技術でも世界をリードできれば、「夢の素材」炭素繊維の未来はさらに輝かしいものになるだろう。
今回の騒動は、その重要性を業界全体に再認識させる貴重な機会となったのかもしれない。ピンチをチャンスに変えて、日本の炭素繊維産業がさらなる飛躍を遂げることを期待したい。
https://www.jcfa.gr.jp/about_kasen/katsuyaku/06.html
https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/pdf/150223/150223_01e.pdf
https://www.matsuo-sangyo.co.jp/innovation/cfrprecycling/
https://news.yahoo.co.jp/articles/820c4f166bf604d9c238128c9a4220e5cf120c8f
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